首里織2
首里織イメージ画像
右より新垣斉子さん、石原りえさん
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 那覇市小禄にある那覇市伝統工芸館へ。首里織の組合はここにも工房を持っていて、実際に織っている織り手さんたちを窓の外から見ることが出来る。「動物園のおさるさん状態だけど、気にならない。だって場所を提供してもらってるから」とくすくす笑い合う新垣斉子(あらかきときこ)さんと石原りえさんは後継者養成の研修での同期生だ。3年前から首里織に関わっているという。「石原さんは手先が器用で、私は不器用なの。」と新垣さん。「そんなことないわよ」と横からすかさず石原さんが口をはさむ。聞くと、新垣さんは首里織の服地を用いて、かりゆしウェアという、沖縄独特のユニフォーム的な夏のシャツを制作し、それで奨励賞をもらったのだという。
 次の日、その展示会に足を運ぶ。最終日だったせいか、たくさんの人が訪れていた。新垣さんの作品はひときわ目立っていた。決して派手というわけではない。むしろ出品されている他の織物や工芸品にくらべれば色も地味である。それでも目を引くのはやはり新しいものに果敢(かかん)に挑戦していこうとする姿勢が作品から強くにじみ出ているからだろう。細く色を違えて差し込まれた何本かのラインが、地のねず色と自然に調和している。肌にのせた時の着心地が予想できる。仕立てのデザインもシンプルではあるが、布の持つ魅力を十分に引き出している。伝統を軸に据えながらも、新垣さんの色でアクセントをつけた、印象深い作品であった。新垣さんがきらきらした大きな目で服地にも興味があるのだと語ってくれたことが思い出された。


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安座間美佐子さん
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安座間美佐子作
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首里織工芸館

 安座間美佐子(あざまみさこ)さんの工房を訪ねる予定の午後。曇り空からは雨が落ち始めていた。安座間さんは、首里織という格式高い織物の、明日を担う組合の理事長である。いささか緊張していた。それなのに、あろうことか、道に迷ってしまったのだ。為す術もなく、情けない声で電話を入れると、すぐに迎えに出てきてくれた。やわらかな笑顔が印象的な方である。少しだけ緊張がとれる。
 工房の中に入ると、ぷぅんと新しい香りがする。機の音が部屋に響きわたる。この音があの鮮やかな布達を生み出しているのだ。
 安座間さんのお母様は首里のご出身である。「母は着物が好きだったから、そういうこともあって、常に工芸は身近にあったわね。」と幼い頃を語ってくれた。首里織にかかわることになるのもそんな幼少の体験が影響したのだろう。短大を卒業し、一年間、工業試験場で織を学ぶ。工業試験場の最後の研修生だったという。その後、織りではなく、別の仕事に就くことになる。2,3年のつもりで勤めはじめたものの、気づくと8年になっていた。それでもやはり織物を忘れてはいなかった。仕事を辞め、それから工芸指導所などを経て、首里織に関わり、20年くらいになるのだという。
「首里織は技法や色がたくさんあるのが魅力。私、欲張りなのよ。」と笑う。王室や貴族だけに許された色、紋様、織りの技法は首里織だけに見られるものもある。織る時にはその風格を意識しながら織り上げるのだそうだ。織り手の心持ちが布には確実に表れ出る。それは他の織物でも同じ事だ。
 安座間さんの作品を見せてもらう。次々と重ねられていく布たちは様々な織で模様を映し出していた。机の上はさながら色の洪水だ。それなのになぜだろう。不思議とそれがうるさくないのだ。やはり品格を兼ね備えた布だからだろうか。
 欲張りだという安座間さんの作品は、どれも誇らしげにその顔を光り輝かせている。
「古典柄を自分の中で昇華(しょうか)させて、オリジナルを作れるのも魅力よね」
そう言いながらどんどん布を広げていく。その度に私の口からは「うわぁ」とか「ほーぅ」とか溜息ばかりもれる。その見事なまでのわざの世界にはありきたりの言葉を発することができずにただただ見入るしかなかった。
 現在、組合では組合員の3分の2くらいの人が活動している。仕事としてやっていこうという若い人たちも増えてきている。後継者養成の受け入れも、地元に残る人、組合活動に携われる人をと考えているのだそうだ。これは当たり前のようでいて、とても大切な事のように思う。講習を受講してもらっても、いずれ首里から離れてしまう人だと、せっかく伝えたはずの手わざを、明日へと伝承できない。
 「組合に関わることは、また違う点で自分の勉強になりますから。」
安座間さんは平成9年に組合の理事長に就任し、現在にいたる。組合員の意識をより高めることが、これからの首里織の発展につながっていくことを痛感している。

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