宮古上布2
宮古上布イメージ画像
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新しい試みとなるティーマット

 織りの工程を見せてもらう。十字絣は針で柄合わせしながら織り込まれていく。片手に針を持ち、少しずつ動かしては柄を揃えている。遠目に見た感じでは何をやっているのか分からないほどの細かな作業だ。慣れない人は一反織り上げるだけで一年はかかるというのがよく分かる。藍の中に白く浮かび上がっていく絣模様。その薄さは溜息が出るほどだ。


 宮古上布を織り続ける理由を「好きだからやっている」と答えていた20代の頃。それが今では「支えなければならない」という気持ちに変わってきた、と垣花さんは話す。守る者、伝える者としての責任の重さを痛感しているのだという。「受け継いだものは伝えていかなければならない」それが伝統なのだ。絶やすわけにはいかない。
 そう話している間も手は常に動かしている。近々、展示会で出品するティーマットだという。「初めての試みだからね。うまくいくといいんだけど。」という口振りとは裏腹に、その目には自信が感じられた。ふくぎの木の皮で染めたという黄色と生成のグラデーションが、太く撚られた苧麻の涼しげな素材感を生かしている。昼下がりのやわらかな光を一身に浴びて、布はまるで呼吸しているかのようである。「成功するといいですね。」私は心からそう思っていた。
 新しいことに挑戦しながら、伝統も絶やさない。それが今の時代に求められた伝統工芸の在(あ)るべき姿だと思う。様々な工房をこうして巡ってきて、私が感じたのはそういう新しい風に吹かれながらもしっかりと伝統に根ざす人々の姿であった。その姿勢はどの織物事業組合も変わらないだろう。


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 下地ハツ先生に「あなたに出来るかな」と言われながらも始めた織だった。「先生には織りの技法だけではなく、心の部分も教えていただいた」、と垣花さんは遠くを見る。
「心穏やかに居て布を織ってほしい。人間的に良くなければ良いものは出来ない。あなたの心が織り上げるのだから。」
今、改めて先生の言葉が身にしみて、さらに強く感じるのだという。
 小さくても、まだ炎が灯っている間になんとかしなければならない。それは遅々たる歩みかもしれない。それでも続けることに意義があるのだ。しかし、それが一度消えてしまうとなると、もう一度灯すのは難しい。
「だから今やらなきゃ」
 そう言った垣花さんの目に光る強い意志と、同時にあふれ出す優しさに胸がふわりと熱くなる。不思議なことに、私の身体の中から穏やかな入り江のようにさわさわと凪(なぎ)だっている音が聞こえてくるのだった。

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