産井(ウブガー)の水は、人が死ぬ際にも使用されたが、地域によっては、逆にそれを禁じている所もあった。これは、研究者によれば、同一観念の裏返しであり、死と生のどちらに比重が置かれているかの違いであるという。 人は死ぬと、死者の身体は水でうすめた湯で清められる。その際、まず水を容器に入れたあとからお湯が注がれる。これは逆水といい、平常はこうした手順のうすめ方は忌み嫌われる。 これらの仕事は女性の仕事とされており、身内の女性2〜3名が、死者に身繕いをさせ棺に収めた。棺は寝室であり、漁村では舟と考えられていた。 戦前までは、納棺された遺体はそのまま墓に収められた。産井の水を使って遺骨を洗い清める洗骨は、地域差があるもののほぼ3〜7年後に行われた。その際も、使者の体を拭く時と同じように、逆水が使われた。これらの作業も、すべて女性の仕事とされていた。 日本本土の庶民の葬制ではあまりみられないが、沖縄や奄美などでは洗骨はきわめて顕著な習慣である。ここには、遺骨や霊に対する供養への尊敬の念がみられ、死後の世界とのつながりや、祖先との強いきずなを尊重する民族性が現われていると思われる。 01.水と人々 |