近年、ダムの開発や干潟の干拓(かんたく)、森林伐採(しんりんばっさい)、林道建設(りんどうけんせつ)などさまざまな開発が行われています。私たちはその都度(つど)、自然の一部を切り取っています。森や川、そして海も大事な自然の一部で、それらを切り取り、壊さなければダムも道も造ることができないのです。それは人が豊かになるためには仕方のないことなのです。しかし、私たちの暮らしが豊かになるにつれて、自然が少しずつ失われていきます。鳥や獣(けもの)は森を失い、サンゴや魚は海を失います。そして、私たちはその全てを失うことになるのです。長い年月をかけて育まれた自然やその流れはとても大切なものです。私たちは、森と共に生き、海と共に育ってきたのです。そしてこれからも...。
 だから、私たちはこれ以上自然を汚さず、壊さないようにすることと、生き物たちが安心して住んでいける環境を守ることが大事なのです。

ヤンバルの森の中
●沖縄の自然と特徴
 数多くの島々からなる沖縄は、古き時代には何度か大陸と陸続きのときもありました。そのとき渡ってきた大陸の動植物は、島々が分断(ぶんだん)されたために、古い形質を残したものが生き残ったり、島ごとに色や形が少しずつ変化して、種分化(しゅぶんか)を生じている種類が数多く見られます。
 また、亜熱帯性気候(あねったいせいきこう)や海流(かいりゅう)の影響を受けているために南方系の動植物が多く見られ、河口にはマングローブ湿地が形成(けいせい)されるところもあります。そして、沿岸海域で発達するサンゴ礁は、多くの生き物のすみかとなり、天然の防波堤(ぼうはてい)にもなっています。サンゴ礁は隆起(りゅうき)して、海食崖(かいしょくがい)や鍾乳洞(しょうにゅうどう)などの熱帯性の地形をつくっているのです。このような理由で、沖縄では環境条件(かんきょうじょうけん)に応じて多様な自然が見られるのです。他方、陸地の面積が狭く生態系の広がりが小さいために人間活動の影響を受けやすく、特に近年の経済活動の進展(しんてん)により大きな圧迫(あっぱく)を受けて、衰退(すいたい)・単調化(たんちょうか)の一途(いっと)をたどっています。

後良川(西表島)のマングローブ林
●森の自然
 沖縄県の植生(しょくせい)は、ガジュマルやマングローブのようにフィリピンやマレーシアなどの熱帯性(ねったいせい)植物と、日本本土の暖温帯性(だんおんたいせい)植物の両方が見られるのが特徴です。また、暖かく湿った気候のため、多くの種類のシダ植物が見られます。
 沖縄の山地の代表的な森林植生はイタジイやオキナワウラジロガシなどブナ科を中心としたもので、沖縄島北部のヤンバルと呼ばれる地域と、久米島や西表島および石垣島などに見られます。これらの森では、ランなどの希少(きしょう)な植物が生え、特にヤンバルクイナやイリオモテヤマネコなどが多く貴重な動物の生息場所(せいそくばしょ)となっているのです。そして、川を通じて海へ流れた落ち葉は分解されて養分となり、サンゴの海の自然を育んでいます。
 開発により木が伐採(ばっさい)されると、森の希少生物の生息場所がなくなり、大雨のたびに赤土を含む水が海に流れ出します。赤土は、海水中に浮遊し広がるため、透明度を低下させ日照不足(にっしょうぶそく)によるサンゴの成育(せいいく)を阻害(そがい)します。また、サンゴに堆積(たいせき)してサンゴを死滅(しめつ)させることもあります。このようなことが、サンゴ礁の生態系に悪影響(あくえいきょう)をおよぼしているのです。

サンゴと熱帯魚
●サンゴ礁
 サンゴ礁とは、暖かく水のきれいな浅い海で、サンゴをはじめ貝やウニなど石灰質(せっかいしつ)の骨格(こっかく)を持つ多くの生物の遺骸(いがい)が、海の底に堆積(たいせき)してできた岩礁(がんしょう)のことです。
 サンゴ礁は、主に造礁(ぞうしょう)サンゴと呼ばれる固い骨格(こっかく)を持ち、光合成(こうごうせい)をするサンゴにより造られますが、それはさらにサンゴ虫とよばれる小さな動物の集まりからなっています。
 沖縄のサンゴ礁には、オーストラリアのグレートバリアリーフにも匹敵(ひってき)する370種類以上の造礁サンゴがみられ、色とりどりの熱帯魚をはじめ、様々な生き物のすみかとなっています。

与那覇湾(宮古島)
●干潟
 干潮時(かんちょうじ)に干上がる内湾や河口の泥砂まじりの浅瀬を干潟(ひがた)といいます。干潟には陸地から栄養分が流れ込むことと、遠浅で潮の干満があり光と空気が十分に供給(きょうきゅう)されるために、ゴカイや貝、カニ、エビ、稚魚(ちぎょ)など多くの小動物と、それらを餌(えさ)にする多くの鳥がみられます。これらの生物が海水や泥に中の有機物を餌として摂取(せっしゅ)するために、干潟は水質を浄化(じょうか)するはたらきを持っています。

ヤエヤマヒルギ
●マングローブ
 マングローブとは、熱帯(ねったい)や亜熱帯(あねったい)の河口の湿地帯(しっちたい)や沿岸部の干潟など、潮の干満の影響がある潮間帯(ちょうかんたい)の分布している植物の総称(そうしょう)です。沖縄に分布している代表的なマングローブは、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギなどの7種類ですが、広く考えるとサキシマスオウノキ、シマシラキなどを含め、30種類を超えるといわれています。マングローブの落ち葉などを源として食物連鎖(しょくもつれんさ)が形成され、プランクトンや貝、カニ、稚魚などが育ち、マングローブの林は「海の森」ともよばれています。
 マングローブの主な分布は沖縄島では東村(ひがしそん)慶佐次川(げさしがわ)、金武町億首川(おくくびがわ)、那覇市と豊見城村にまたがる漫湖干潟、宮古島では平良市(ひららし)島尻、石垣島では宮良川、吹通川、名蔵川、西表島では、仲間川、後良川、浦内川などとなっています。

鳥獣保護区 漫湖干潟
●鳥獣保護区について
 鳥獣保護区(ちょうじゅうほごく)とは、「鳥獣保護又狩猟ニ関スル法律」に基づき鳥類と哺乳類(ほにゅうるい)を保護する区域です。保護区は、森林鳥獣生息地(しんりんちょうじゅうせいそくち)、集団渡来地(しゅうだんとらいち)、集団繁殖地(しゅうだんはんしょくち)、誘致地区(ゆうちちく)、特定鳥獣生息地(とくていちょうじゅうせいそくち)に区分され、区域内では、狩猟鳥獣(しゅりょうちょうじゅう)や狩猟期間(しゅりょうきかん)であっても、すべての野生鳥獣の狩猟は禁止されています。さらに特別保護地区では工作物の設置、立木竹の伐採(ばっさい)、水面の埋め立て・干拓などに規制(きせい)がかかります。県内には国設、県設合わせて、26個所の鳥獣保護区が設定されています。代表的な場所として沖縄本島では、屋我地(やがじ)、漫湖干潟、宮古島の与那覇湾、石垣島のアンパル[名蔵湾]などがあります。

自然環境保全地域 [嘉津宇岳周辺]
●自然環境保全地域について
 自然環境保全地域(しぜんかんきょうほぜんちちいき)とは、すぐれた状態を維持(いじ)している森林・海岸、特異な地形地質、野生動植物の自生地・生息地など、自然的・社会的条件からみて特に保全が必要な地区を自然環境保全法や沖縄県自然環境保全条例に基づいて指定するものです。指定地域では、工作物の新築や土地の造成などが規制されています。現在12地域が指定されています。代表的な場所として沖縄本島では、嘉津宇岳(かつうだけ)・安和岳、石垣島の崎山湾、与那国島の東崎、久部良岳などがあります。

絶滅危惧種のカンムリワシ
●沖縄県版レッドデータブック
 本県の野生動植物の現状を把握(はあく)し、絶滅(ぜつめつ)のおそれのある種を選定(せんてい)することにより、その種および生育・生息環境を含めた保護対策(ほごたいさく)の基礎資料とするため、1996年3月に都道府県版としては国内で7番目にレッドデータブックを発刊(はっかん)しました。
 このブックには、植物896種、動物484種が記載(きさい)されており、絶滅種(ぜつめつしゅ)が植物17種、動物6種、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)が植物103種、動物28種、危急種(ききゅうしゅ)が植物349種、動物53種となっています。
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