7.沖縄移民社会の今後の課題
本項ではむすびに代えて、沖縄移民社会の今後の課題について、筆者の意見を述べることにする。
将来、沖縄県出身移民を含めた日本移民社会は、2・3・4世の時代に移り、戦前渡航の移民1世の生存者は加速度的に少なくなっていくものとみなされる。そのため、1世移民が健在のうちに、早めにそのライフヒストリーとしての生活や活動等の記録を残しておくことが重要であると考える。海外在住日本移民の一人びとりが記録保存の重要性を認識し、とくに1世移民の伝記・個人史作成に取り組むことを希望する。もし、移民本人による記録作業が困難な場合には、テープレコーダー等を利用した口述による記録保存の仕方も考えられる。現在、ハワイ大学のSocial Science Research Institute において、このような日本移民1世などの面接聞取調査が熱心に進められている。これを見習うべきであろう。
移民社会の今後の第2の課題としては、移民受入国のおける沖縄県出身移民の実態を把握することである。先にみてきた沖縄県系移民が多数在留するアメリカ合衆国・カナダ・メキシコ・ブラジル・アルゼンチン・ペルー・ボリビアなどにおいて、移民の面接聞取調査などの現地実態調査を早急に実地する必要がある。従来行われてきたような視察目的の旅行ではなく、本格的な十分に時間をかけた現地沖縄系移民の実態を調査すべく、沖縄県の積極的な企画と予算措置を望むものである。
沖縄移民社会の第3の課題としては、移民受入国と移民母県母村との相互交流、すなわち、国際交流の面が考えられる。これは移民受入国や地域と1・2・3世などを通した個人レベルの国際交流から、字・市町村・県・国レベルまでの国際交流の広がりまで考えられる。また、現地移民社会からの強い要望として、各国とも移民の新しい血を必要としている。しかし、旧態依然たる戦前型の移民の時代は終わっているので、新しい型の移民の出現を望みたい。
第4に、現在沖縄県内の各移民母村は独自に移民関係資料を収集し、移民資料館建設の動きがある。また、海外各地の移民からの要望もあり、移民母村においては市町村史誌類の章節に移民事象の取り入れを、また、単独に移民史誌類の編纂が行われているところもある。以上のことは、沖縄県内の各移民母村がかつて恩恵をうけた海外在住の移民のことを考える時期にいたっているものと推察される。そこで、沖縄県が、必要ならば国の援助を要請して、長期的な移民を通した国際交流事業の企画・政策等を打ち立てるべきではなかろうか。差し当たり従来おこなってきた移民子弟の県費留学生制度や各種研修員受入制度、各国県人会への援助等は引きつづきおこなうことにして、つぎに海外の沖縄県系人(ウチナーンチュ)と沖縄県民との精神的紐帯を強める意味において、米国イリノイ大学教授平恒次氏の提唱する世界のなかの沖縄人のネットワークづくりが望まれるのである。その一環として、まず、沖縄県に世界の沖縄県系人の情報センターを兼ねた移民資料館の建設が急務であることを訴えたい。
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