朗読者:伊狩 典子 |
むかし、そのまたむかしの話。 六十歳になった年よりは、山にすてないといけないという決まりのある村があったわけ。 今年も六十歳になったばかりのオジィとその息子が、トボトボと田んぼのあぜ道を歩いていた。 「ええオジィよ、いくら決まりだといっても・・・」ため息をつく息子。 「こんないってもしょうがないさ。みんなで決めたことなんだから。六十歳になったら、どのオジィ、オバァも山に行くんだから」とオジィ。 とうとう、年よりだけが住むさびしい山の中についた。 |
「もういいよ、だいじょうぶだから。元気でな」 オジィは明るくニッコリ笑って言うと、うす暗い森の中へ入っていった。 |
それからしばらくして、いそがしい毎日を過ごしていた息子の村に、ウォーンという音が聞こえてきたと思ったら、空を真っ暗におおってイナゴの大群がおそってきたんだって。 青々としげっていた田んぼや畑の作物は、おそってきたイナゴの大群に食いあらされて、大変なことになってきたわけ。 「どうしよう、このままだとせっかく実りかけた作物が全滅してしまう」 村中の人たちが集まってきたけど、いい知恵は思いつかない。 「そうだ、こんなときは、山の中にいるオジィに聞けば何かいい知恵があるかも」 息子はそう言うと、急いで山の中へ走って行った。 |
「どうした」。 そこには、前と変わらない元気そうなオジィのすがた。 息子がイナゴの大群におそわれて、村が大変なことになっていると言うと、オジィは、 「それならむかし聞いたことがある。村中にあるワラを全部集めて、大きい綱を作って、あぜ道で大騒ぎすればいい。みんなで昼も夜もにぎやかにやれば、イナゴはいなくなるよ」 それを聞いた息子は、さっそく村へ帰ってみんなにオジィの言葉を伝えて、大きい綱を作って綱引きをすることにしたって。 |
ハーイヤ、ハーイヤ。まだまだ、アネ、ナーヒンヒチュンドー(さあ、もっとひくぞー)。 もうみんなはいっしょうけんめい。夜になっても、綱引きは続いた。 やがて二日目になり、三日目の朝。 とうとう田んぼや畑にいたイナゴの大群は、ウォーンという音とともに山の向こうへ飛んでいったって。 それから、豊作をいのる大切な行事として、綱引きは琉球中に広まって今に伝わっているわけ。 六十歳になった年よりを山にすてるという決まりもそれからは取りやめになったんだってさ。 みんなも、オジィやオバァを大切にしようね。きっといい話を聞くことができるよ。 |