石垣港行きの船から見た夕焼け

 今でこそ、飛行機という便利な乗り物ができて、海外へも何時間もあれば行ける時代になりました。しかし、つい何十年前の時代でも、海外旅行はおろか国内旅行でさえ簡単には行けなかったのです。ましてや、船しか交通機関のなかった百年以上前の時代には、海外へ行くということは、それこそ命がけのことだったにちがいありません。
 科学の発達した現代では考えられないような、不可解な現象が海の上にはあったことでしょう。そんな中、むかしの琉球の人々は、貿易目的ではるか遠い中国や朝鮮、東南アジアまで帆を張った頼りない船で出かけていったのです。その時代のことを今は、敬意をこめて「大交易時代」という言葉で表現しています。
 風のないおだやかな日ばかりではありません。波の荒い日や台風に、船に乗る人々は海の神に祈りをささげ、陸で待つ人々は、「どうか大事なあの人が無事でありますように」と、これまた神に祈りをささげたにちがいありません。この物語は、むかしの人々が無事に航海を終えることができますように、という祈りがこめられています。海の神様であるりゅうの機嫌をそこなわないように、陸でりゅうをひどい目にあわせたムカデの旗をかかげ、船の頭にはそのムカデを退治したニワトリの姿を置く。そこには、自然にさからわず、自然とともに生きようとするむかし人の知恵をも感じることができます。
 飛行機で海外へもひとっ飛びで行ける時代ですが、むかしの人々の苦労をかみしめながら、外国の地を踏むのもいいかもしれません。